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ロマサガ-ミンスト の プレイ日記とか二次創作とか
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    鬼哭(其の五)

 その夜、予想をたがえることなく、刀は哭いた。
 そしてグレイは草原へ向かう。
 草原に彼を待っていたのは彼の姿の幻ではなかった。
 グレイ自身、そうなる気がしていた。
 幻は、もう来ないと、そう思っていた。
 荒野の西バファルの中の小さな草原、皓々と冴える月の下で待っていたのは、
 般若の面をした、一人の男だった。
 月を背に、黒く佇んでいる。
 雰囲気が、今まであったどの相手とも違う。
 黒くて、黒い。 ひたすらに黒い。
 男へ、グレイは
(待たせたな。)
 心の中で、呟いた。
(ああ、待ったよ。)
 返答があった。
 低い声。 般若の男は、まっすぐこちらを向いている。
 面から洩れる眼光は、まさしく鬼のものだった。
(お前が、お前を越える日を。)
(・・・。)
 斬ることしか考えない、狂った眼光。
(ひたすら待った。 お前が剣の鬼となる日を。)
(・・・。)
 その動きには、その体には、一切の無駄がなかった。
 おそらく、無駄な筋肉すら・・・。
(しかし、
 お前は鬼に成れなかった。 お前は退いた。)
(・・・。)
 斬る鬼。 鬼人。
(お前にはもう、俺という刀を振るう資格はない。)
(・・・。)
 男は、こちらを凝然と見ている。
(斬らせてもらおう。)
 般若の男は、(心の中で)そう言って、自らの刀を抜いた。 グレイと同じ刀。 古い妖刀。
 そして、構えた。
 構えられて、グレイはすぐ気付いた。
 般若の男の剣は、絶対相打ちの突き。 自分の全ての技、体の運び、気持ちを、全て一発の突きに籠める必殺の剣。
 悪鬼羅刹の剣。
 負けるヴィジョンが、夜の中に無数に現れた。 
 後ろに下がる、下へ避ける、左へ、下へ、、、 その全ての予想で、突かれていた。 
 何をしても無駄。 相手を殺すことに特化した、自分が斬られる事すら厭わない斬り方。
 まさしく、最強の剣。
「・・・。」
 グレイは、般若の男に気付かれないように、ふぅと息を吐いた。
 まっすぐ、男を見る。
 体を軽く・・・、
 幻影にとらわれない。 考えることは今は無駄なこと。
 抜いた刀を、下へだらりと提げる。
 力を入れない。 どこかに体重を置きすぎない。 視野は常に広く保つ。
 体は自在に。 剣は無限に。
 絶対自由。
 ・・・。

 ・・・。
 ・・・。
 風が草を凪いだ時、般若の男は飛び掛った。
 それは矢の様な突き。
 その剣はまっすぐグレイの胸元を狙い、
 当たるかとした瞬間、
 二人の体が交差し、
 一拍の間をおいて、
 般若の男は倒れた。
 矢を凌駕する瞬即の剣。
 それは稲妻のような切り払い。
 グレイはその切り払いを、一瞬で決めたのだ。
 突きが胸元へ刺さるその瞬間に。
 般若の男が倒れる時、その般若の面が外れた。


 仰向けに、男は倒れていた。
「なぜだ。」
 男は訊いた。 男の顔は、予想していたより老けていた。
「なぜ・・・。」
 男の声は、先ほどよりしゃがれていた。
 目はグレイを見ているようで、虚空を見ている。
 微かに、鬼の香りが残る目。
「簡単な話だ。」
 グレイは、淡々と喋る。
「たまたま、お前より俺のほうが強かっただけだ。」
「・・・。」
 それを聞いて、
 暫く黙っていた男は、
 くっくっくっ・・・
 あ~っはっはっはっはっは・・・
 笑い出した。
 その目に、涙を浮かべながら。
「たまたまか! それはいい!!」
「・・・。」
 そして、
「俺は負けたのか。」
 夜の草原に、男の大声がこだました。
 その声は、もう、影を生み出すような陰鬱なものではなかった。
 勝者を称え、諦めつつも、自分を相手を尊敬する声。
「負けるってのも、悪いもんじゃあないんだな。
 勝つために自分を鍛え、勝つために刀を鍛え、泣くことも笑うことも封じた。」
 ふぅ、と息を区切って男は言葉を続けた。
「それももう無駄だ。」
「・・・。」
 夜空を見上げている男を残して、グレイは歩き始めた。
 パチン、と納めた刀は、いつもより軽く感じる。 勿論、一滴も血はついていない。
 ついていたとしても、その血は赤かっただろう。 人間と同じ血の色だったろう。
 人より熱かったがために、鬼へと昇華した、赤い色だったろう。
 いつもと同じ夜なのに、その風は、その空は、その月は、冷たくなく、単に涼しかった。

 まだ空を見ている男へ、グレイは言った。
「お前を、師と呼ばせてもらおう。」
 誰よりも自分を鍛えてくれた刀の鬼へ。
 男はそれを受けて、
アーッハッハッハッハッハッハ・・・
 また、笑い始めた。
 グレイの背を追いかけて、
 鬼の笑う声が、妙に明るいリズムで響いた。
(聴こえる。
 鬼の哭き声も、それほど悪くない。)

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